ますだ/ペンネームCの日記です。06年9月開設
ウェブサイト「カクヨム」で小説書いてます。
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たてつづけに面白い小説を読んだ。
これはすごい。 まず、 大樹連司「勇者と探偵のゲーム」一迅社文庫 これは「新しい」!! 「斬新!」 こんな小説がありえたのかと、目から鱗がボロボロ。 膨大な量のアニメやゲームやライトベルが積み上げられた「いま」だからこそ書ける小説。 挑戦的メタフィクション。 まず設定が新奇だ。 こんな話だよ。 近未来の日本。 ある街では、『装置』の力によって『物語』が現実化させられていた。 街には勇者と探偵がいて、勇者は宇宙人や魔界の侵略者と毎日戦い、探偵は毎日殺人事件を解決していた。まるでアニメやライトノベルや漫画のようなことが日常的に起こっていた。 そして『物語』の解決は現実の日本に影響を与え、日本国の抱える問題を解決する。 「勇者・疾風寺舞が九人のサイボーグ戦鬼の熾烈な妨害を撃退し、七十年近く街の裏山に封印されていた神剣・草薙の剣を引き抜けば、次の日、憲法九条が改正された」 (49ページより) 「探偵が、「中国語の部屋の殺人」を解き明かして、人間並みの判断力を持った人工知能なんてものを日本にもたらしたせいで、あらゆる分野で自動化と効率化が進んだ。進みすぎだ」 (64ページより) みたいな。 でもそんな『物語だらけの日常』に人々は慣れていた。不平なんて言わなかった。 迷惑料を払ってもらえるし…… 普通の住民はギャラリーで、『物語』に巻き込まれることは滅多にないし…… もし巻き込まれて死んだら、お国のための戦死扱いで、遺族に莫大な援助があるし。 そして……日本という国はとても退屈だから…… 勇者と探偵が活躍して日本の問題をどんどん解決したせいで、仕事は機械がやってくれる、よっぽど優秀な人間以外はみんなニート、という社会が当たり前になってしまった。 主人公は高校生なのに、自分の人生を諦めている。自分より遥かに優秀な人が、なにもできないのを見てきたからだ。 「俺はきっと、一生のこの町でジャスコに通って、勇者の戦いを収録したライトノベルを読んで過ごすのだろう」と。 人々は『物語』に眉をひそめながらも、でもどこか憧れていた。 いつか俺も巻き込まれないか……偉大なる死が、俺の身にも訪れないか…… そんな時、主人公が密かに想いを寄せる少女が、とつぜん死んでしまう。 クラスメートの誰もが『ああ殺人事件か、探偵はいつ来るんだ?』と思った。 しかし来なかった。ただの事故だったのだ。すべての因果律が『物語』に奉仕するこの街で、決して起こるはずがない……『ただの事故』! クラスメートたちはその事実を受け止められなくて…… この小説は波乱万丈の物語じゃない。 そう来たか! なるほど! と膝を叩く展開は一切ない。 「ああ、やっぱりそうなるか。それしかないよな」という、誰でも予想できる悲劇に向かって転がり落ちていく。 でも、その「当たり前の結末」に至るまでの、主人公の感じる絶望が、文章全体に満ち溢れる閉塞感が、もうなんていうか……胃袋をギューッとしぼられる感じ…… これか。これなのか。 現代日本にあるのはこれなのか。この1冊の小説がすべてを描ききってしまったのか。 いや疑問形じゃない、全ては大げさにしても、日本社会の核心を描いている。 私はこの小説を読んで初めて、「自分が脇役である苦しみ、決して主役になれない苦しみ」というものが分かるようになった。 あと、もちろん現実世界には「勇者や探偵を生み出す装置」なんてものはないんだけど。 でも、「ただの事故なんて有り得ない、きっと物語があるはずだ」という人々の期待は、現実世界にもある。 ただの偶然で人が死んだということを認めるのって辛いでしょう。 どうしても「左翼教師がバカな教育をしたから」とか、「新自由主義が人々の心の絆を奪ったから」とか、そういう「悪役探し」「因果関係作り」をしたくなる。 私もしたくなる。マスコミもしたくなる。 ありのままの現実を見たくない。物語が欲しい。 昔から人間はそういうもんで、「人の死に理由があったことにしたい」という欲求こそが宗教を生み出したのかもしれない。 そういう意味で、古代から現代にまで続く人の本性を鋭く描き出した小説でもある。 歴史的な作品だと思う。ドス黒いけど。 オタク知識があればあるほど「あの事か」「もうやめて」と苦笑してしまうブラックユーモア小説だけど。 PR |
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