ますだ/ペンネームCの日記です。06年9月開設 ウェブサイト「カクヨム」で小説書いてます。 こちらです https://kakuyomu.jp/users/pennamec001
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 最近面白かった小説

 うえお久光「紫色のクオリア」(電撃文庫)
 
 ずいぶん前から話題になっていた小説を、やっと読んだ。
 こ、これは凄い。
 半年前に出版された本だから、サクッとネタバレしますよ。未読のかたはご注意ください。

 「わたしには親友がいる。ゆかりという、『人間がロボットに見えてしまう変な変わった女の子』」
 「ゆかりは、とてもかわいい」
 自分にコンプレックスをもつ少女が一人称で、友達への思いを語りだす。
 そして、その友達は「人間を人間として認識できない」から孤立している。
 この友達を守りたいと思う。
 あるとき知ってしまう。ゆかりは、「人間がロボットに『見える』だけじゃないのだ」と。
 彼女はみんなと少しズレた世界に生きていて、「彼女の世界では、人間は本当にロボット」なのだ。彼女は人間を機械のように修理改造できるのだ。
 ゆかりのいる「少しズレた世界」に私は決して触れることができない……隣にいて言葉を交わしていても、彼女はあまりに遠い……断絶に震える主人公。
 それでも友達でいることはかわらないと決めた。
 その変わらないはずの二人に、残酷な運命が襲い掛かる……
 謎の組織に、ゆかりが殺されてしまった!
 ここまでで全体の半分。
 残り半分で、無限の時空間を舞台とする超壮大な平行世界物になります。
 たった100パージくらいで、主人公は親友を救うため、平行世界を移動する能力を手に入れる。
 正確には、「移動」してるんじゃなくて、「別の平行世界にいる自分」と精神を繋げる能力。
 心の奥底まで繋がって、記憶も感情の共有できるから、「あらゆる並行世界にいる自分」は、もはや一体の存在。
「こっちのあたしはだめだった。あんたのところは?」「こっちもだめだった」「べつのあたし、頑張ってね」って。
 「無数の平行世界に広がった、無限のあたし」たちは、あらゆる可能性を求めて戦う。
 このへんの「え? え? なんでそんなことが可能になるの? え? そこまでいっちゃうの?」感が凄まじい。読んでいてクラクラして、ツッコミを入れる暇すらない。
 いや、ほとんど理屈らしい理屈が説明されていないような…… 
 説明されてるけど私には理解できないだけなのか……
『無限に世界があるんなら、魔法を使えるあたしだっているはずだ』→『まほうしょうじょ・まじかる・まるちぷる・まなちゃん、たんじょう!』
 これは笑うべきところなのか戦慄すべきところなのか。
 ありとあらゆる手段を尽くして。
 でも、ゆかりを助けることはできなくて……
 そして、ゆかりの「ある一言」で、無限の平行世界をまたにかけた戦いは、終わる。
 え? こんなにアッサリと?
 ちゃぶ台返しとしか言いようがない。
 
 凄まじい速度でスケールアップしていく後半を「圧倒的なドライブ感」といって賞賛する意見がある。
 うーん……私の感覚はちょっと違うな……
 これはドライブじゃない。飛んでいたと思ったら元の場所に戻っていた、という、悪夢の中のような、賽の河原のような不条理……確実に進んでいるはずなのにリセットが繰り返されているという……
 この小説を読んで、小林泰三の「酔歩する男」を強く連想した。
 死んだ女を救うためタイムトラベラーになった話。
 異色のタイムトラベル理論が、その理論がもたらす世界の崩壊が、とても、とても私の心に傷を残した。
 「実は因果律には科学的根拠が何もない」
 「タイムトラベルは能力じゃない。能力の欠如なんだ」
 そう、過去に戻れる、「戻ってしまう」というのは、全ての努力も思い出も無駄だ、ということなのだ……
 すべては幻でしかない、眼が覚めたあとの夢と同じで、全部なかったことになる。ということなのだ……
 現実崩壊ホラーの傑作でもあり、SFでもある。
 
 「クオリア」読んだときも同じような印象。
 感動、興奮、というよりも、怖かった。
 無数の平行世界と心が繋がって「あたしはもう死ぬから、そっちのあたし、頑張ってね」とか言い合うのはどういう心境なんだろう……見えてしまう、分かりすぎてしまう、それって怖いことじゃないか。
 「無数の平行世界」に移動できる、1億人の自分が失敗しても1億1人目が成功すればいいってのは、「今いる、この世界」はとても軽いってことだから。成功も失敗も、痛みも恋も……
 
 とにかく、読みながら「現実世界が消えてしまうような恐怖」を感じることができた。
 実は全然ハッピーエンドじゃないのに、すがすがしく描かれているのが、ますます怖い。

 美奈川護「ヴァンダル画廊街の奇跡」電撃文庫

 ああ、あったかい。
 「クオリア」の後にこれを読んでよかった。心の穴に何かが埋まった。
 
 時は近未来。世界は「統一政体」に統治され、戦争が根絶された。
 しかし統一政体は平和をもたらしただけでなく、「プロパガンダ撤廃令」によって数々の芸術を弾圧したのだ。名画や名曲がことごとく「戦争につながりかねない」といって規制され、表現者が逮捕されていく……
 そんな中で、禁じられた絵画を、魔法のように一瞬で、建物に描いて回る者がいた。
「あたしたちは『ヴァンダル』。世界に禁じられた絵を、解き放つ者」
 一発の弾丸も放たず、一人も殺さず、だが「統一政体」に敢然と戦いを挑む「アート・テロリスト」。
 統一政体は対策チームを作ってヴァンダルを捕らえようとする。
 ヴァンダルは捜査をかいくぐって「禁じられた絵」を描き、人々の心を救い続ける。
 果たしてヴァンダルは何のために絵を描くのか。
 描き続けることは、できるのか。

 「芸術が規制された管理社会。それに戦いを挑む者」という大筋をきいて、映画「リベリオン」とか連想したわけですが、だいぶ違う。
 ああ。人を殺さなくても世界を変えることはできるんだ。
 世界を変えるなんて大上段にふりかぶらなくても、目の前にいる誰かの心を動かす、そのちっぽけなことが、けっきょく世界の変革に繋がっているのかもしれない……
 だから。 
 なにかを創作するって、いいな。表現の力って、すごいな。
 心がホカホカになりました。
 
 「捜査班との駆け引きがあっさりしてる」とかツッコんじゃだめだ。
 私もツッコミたくなったけど、おかど違いだ。
 この話はバトル物じゃないんだ。

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