怪しい夢を見た

　私はけっこう面白い夢を見るので、枕元にノートを置いて、見た夢を記録するようにしている。
　眼が醒めた直後に書き写さないと忘れてしまうんだ。１０分たったら、もう駄目。
　あとで読むと、意味不明な単語の羅列ということもあるけど。
「初号機」「コンドーム」って２単語だけ殴り書きされても……なんですか、それ？

　今朝の夢は克明に記録できた。凄かった。

　私は夢の中で、バイク便をやっている。
　わりと優秀なライダーであるようだ。だが実は、２年前に子供をはねて、逃げていた。
　夜。急いでいた。住宅地の横断歩道を猛スピードで横切ってしまった。あっと思ったときはもう遅い。バックミラーの中で、ぶつかった子供が吹っ飛ぶ姿。よく覚えている。
　赤いランドセルが開いて中の教科書が飛び出すところとか、ゴツッという衝撃とか、これは絶対に現実だ、というくらいの臨場感。
　あたりを見回す。誰もいない。誰も見てない。
　私は震えながら逃げた。すぐにヘルメットを買い換えた。「ほらヘルメットが違うでしょう、別人です」と言えるように。古いヘルメットは山梨県の道志村まで行って川に捨てた。
　そしてこの２年間、「自首しなきゃ、あの時の子供は助かったんだろうか、いつ警察が来るだろうか」と、罪悪感と恐怖を抱えて生きてきた。その恐怖から逃れたくて死に物狂いで仕事に打ち込み、評価されていたのだ。
　ある日、書店で、ハードカバーの新刊を見かける。
　クレヨンみたいな画材で描かれたランドセルの絵が表紙で……
　これはまさか、と思って読んでみると、私の起こした事件のことだった。遺族が書いた本だった。
　やっぱり子供は死んでいたのだ。即死ではなかったが、内臓を損傷していて、集中治療室で何時間も苦しみながら死んでいったという。
　子供をいとおしむ想いと、いまものうのうと暮らしている犯人への憎しみが、赤裸々に語られていた。
　やっぱり俺は自首しなきゃいけないんだ。そう思って警察署まで行って、でもどうしても入れなくて、周りをグルグルと歩き回った。
　と、その時、田舎の親から電話がかかってくる。ひさびさに顔を見に来るというのだ。
　自分の家で、年老いた両親を歓待する私。
　親はどう見ても七十代で、現実の両親よりもずっと老けている。
　親は、長い間ニートだった（夢の中の設定ですよ）私がバイク便として認められたことをとても喜んでくれて、涙まで流してくれた。
　俺は自首できない、そう思った。
　もし自分が本当はひき逃げ犯だとバレたら、親はどんなに悲しむだろう。だから俺はやっぱり、このことを死ぬまで隠し通さないといけないんだ……でもできるだろうか……
　隠し通そう、と決めたとき、突然ファンファンと警察のサイレンが聞こえてきて、私のアパートを数台のパトカーが包囲する。
　バレたんだ、俺を逮捕しに来たんだ、何故か確信できた。
「ちょっとトイレ」
　私はそういってトイレに入る。　
　バレたとき、親に合わせる顔がない。でも、もう逃げることもできないだろう。
　この場で首を吊ってあの世に逃げるしかないんだ。
　ベルトを外して、便所の天井にひっかける。
　便器の上に立ち、ベルトの輪に首を通したそのとき、便所の外で母親の明るい声が。
「じゅん、ウインスペクターさんが来てくれたわよ？」
「はあ！？」　
　私はびっくりして便所から飛び出した。
　玄関には警官がいた。普通の警官ではない。真ん中にいる警官は人間だが、首から下を妙な装甲服に包んでいる。両脇に立っているのは黄色と緑のロボットだ。ロボットが腕をヒョコヒョコと動かしていた。
「特警ウィンスペクターだ。君を逮捕する」
　メイデイメイデイ！　Ｓ・Ｏ・Ｓ！　どこからか主題歌が流れてくる。
　……そうかウィンスペクターなら逮捕されても仕方ないな。それにしてもウォルターの腕の動きは怪しいな。
　私はおとなしく逮捕されて刑務所に入った。
　
　そこで眼が醒めた。

　なんだよこのオチ！？　俺の頭どうなってんの？
　ウィンスペクターがなんだか分からない人は、ぐぐって下さい。
　いろいろ動画が出ますよ。
　いや、しかし、なぜウィンスペクターが……
　俺そんなにファンだったかな……？