ますだ/ペンネームCの日記です。06年9月開設
ウェブサイト「カクヨム」で小説書いてます。
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素晴らしい本を読んだ。この本の素晴らしさを全世界に知らしめたい。
田中ロミオ「灼熱の小早川さん」小学館ガガガ文庫 何が素晴らしいかって、まずイラストがいい。表紙の眼鏡っ子がたまらない。理想だ完璧だ。夢に出てくる。出てきてほしい。 優しい曲線を描くフレームの向こうの、繊細で憂いを秘めた大きな瞳がたまらない。丸顔のなかでほっそりと尖った、ガラス細工のような顎がたまらない。起伏の乏しい未成熟な自らの肉体を、不安げに抱きしめるような仕種がたまらない。鮮やかに白いうなじがたまらない。子犬の尻尾のように左右にピンと飛び出した髪型がたまらない。ひるがえるチェックのスカートがたまらない。 背景に舞い散る桜の花びらが、切なさとはかなさを倍加させて…… 表紙をめくってカラー口絵を見る。 ああ! 同じ少女が百面相をしている。怒った顔、泣いた顔、微笑み……脱力したようなトロンとした顔……どれも人間の根源的な生命力を感じさせる素晴らしいものだが、なんといっても怒っている顔がもうたまらない。はっきりと視線をかんじた。 眼鏡っ子がぼくを見てる……二次元の向こうからぼくを見てるよぉぉぉ! 失礼。取り乱した。 内容を読んだ。期待は裏切られなかった。 メガネの似合う、マジメ少女の物語だ。 誰も校則を守らない、ゆるーい、だらけきったクラス。 そこにマジメでカタブツな少女がやってくる。彼女はたったひとりでクラスを改革しようとする。彼女は過激で、炎の剣のようで、クラスの空気を構わず焼き尽くす。 主人公は洞察力と機転にすぐれ、クラスの空気に溶け込んでうまく立ち回ってきた男。とつぜんクラスの和を乱しはじめた少女に戸惑う。スパイとして少女のそばに送り込まれる。 最初は少女のマジメぶりに辟易し、それを抑制しようと試みる。だが共にクラス代表の仕事を頑張るうちに、思いはじめる。 もしかして少女は間違ってないんじゃないか。確たる理念も覚悟もなく、ただみんながそうだからという理由で校則に逆らいサボりまくるクラスメートたちこそ間違っているのではないか。 主人公は少女の片腕となって、クラスに満ちる「空気」と戦う。最初は演技で従っていた。いつしか本気で惹かれていた。少女の一途な頑張りに。隠された茶目っ気に。もう少女のことが気になって仕方ない。 その後、主人公の先走った行動と、選挙という挫折があって、二人の間には大きな亀裂が入ってしまう。少女は闘うことを諦めてしまう。 だがそれでも、主人公は、自分の想いを行動で示したくて、少女のぶんまで背負って独りで闘った。友達全員を失い、傷だらけになって、それでも…… ついに想いは届き、少女は振り向いてくれた。力を合わせて「空気」の支配を打ち破る! めでたしめでたし。 読後、いちばん最初に胸をよぎったのは、身をよじって苦しむほどの羨望。 こんな学校生活を送りたかった! 他のライトノべルを読んだ時には浮かばない想いである。 ハーレム物など羨ましくもない。 文学少女シリーズの恋愛は羨ましいが、波瀾万丈すぎて関わりたくない。死んじゃうって。 だがこの作品には……入りたい!!! ガガガ文庫には「スクールカースト物」が多い。 クラスをがんじがらめにする、見えざる律法。その律法に適応できない者達、あるいは積極的に反逆する者達の、青春小説。 田中ロミオ「AURA~魔竜院光牙最後の戦い」 大樹連司「ほうかごのロケッティア」 そして再び田中ロミオ「灼熱の小早川さん」 どれも傑作だ。ある意味では、同じ話の変奏曲だ。同じ話をこんなに捻れるものか、という。 小早川さんは、いちばんの直球。 AURAは邪気眼妄想、ロケッティアはロケット打ち上げという異物を入れて、デコレーションしている。 しかし小早川さんはデコレーション無し。 捻り無し。剥き出し。ありのままで、純粋で、一途で……くるおしいほどに。 ヒロイン自身のように。 オススメの一冊です。 世界に生苦しさをおぼえる者に。 空気の攻撃力を知っている者に。 かがやける青春を幻視したい者に。 そしてもちろん、なによりも、眼鏡っ子好きに!! PR |
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