ますだ/ペンネームCの日記です。06年9月開設
ウェブサイト「カクヨム」で小説書いてます。
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映画「チェ 28歳の革命」を観た。
キューバ革命の英雄、チェ・ゲバラの映画だ。 仕事が早く終わったので帰りに寄ったんだけど…… おお。 たった8人しかお客さんがいない。ガラッガラ。 「世界でもっとも愛された男ゲバラ」「20世紀最大のカリスマ」(映画の宣伝文句より)は、この映画館ではまったく愛されてねえ! ゲバラになりたくて火炎瓶を投げていた全共闘世代はどこに消えたんだ! 観た印象は「思想色の薄い、普通の戦争映画」。 ゲバラ視点の一人称的な描き方で「なぜ戦争になったのか?」とか背景のことは描かれない。銃撃戦と行軍の繰り返し、最初はとまどっていたが、勇敢なカリスマ的指揮官に成長していく主人公。喘息というハンデに苦しみながらも転戦を重ね、傷ついた同志を見捨てず治療し、兵士達に読み書きを教えることも忘れない。ボルトアクションライフルと散弾銃など寄せ集めの銃器で戦っていたが、次第にパワーアップして、アサルトライフルとロケットランチャーになる。最後は市街地で敵の秘密兵器・装甲列車と死闘! 機転を利かせて強大な敵を打ち破ってハッピーエンド! これで敵が宇宙人だったら「普通のハリウッド映画じゃん」みたいな。 革命後のゲバラが国連で演説するシーンとかも一応あるんだけど、でも「共産主義がこんなに正しい!」みたいなアジテーション色がぜんぜんない。逆に主義者の恐ろしさも描かれていない。そもそも「共産主義」という単語が3回しか出てこない。 (ちなみに「実録連合赤軍」には100回くらい出てきます) なぜ戦うのか、をもっと聞きたかった。 思想のかわりにゲバラが繰り返し叫ぶのは、もっと素朴で原始的で理論化されていない、愛と敬意だ。 「ゲリラ戦にもっとも必要なのは愛だ。民衆への愛、真実への愛……愛のない革命家はナンセンスだ」 「私は農民を尊敬している。だから彼らのものを決して奪うな」 そしてゲバラは「キューバはキューバ国民じしんのものだ」というシンプルな民族自決主義も口にする。こんなのマルクス主義的にはあり得ない発言だ。「労働者は祖国を持たない」んだから。 理論はどうでもいい、という描き方だった。 よく考えればアメリカも革命の国、ゲリラ戦争で生まれた国なんだよね…… こういう描き方をすればアメリカ人もキューバ革命を受け入れるのかも。 以前「歴史群像」にゲバラ伝が載っていて、こんなことが書かれていた。 「ゲバラは美化されすぎている。彼の功績と言われているのは副官のカミーロによるもので、彼自身は優秀な指揮官ではない。夢想家で教条主義的で、情勢判断のできない、部下を犬死させた人間に過ぎない」 それも一理あるな、と書かれていたので、「そういうダメな部分も垣間見えるかも」と思って観た。 うーん、この映画の中ではダメな部分なんてない。偶像的な英雄だねえ。 あえて言うなら、ラストシーン。 革命後、部下がド派手なアメ車を乗り回しているのを見たゲバラ。「それはどこで手に入れた?」「奪ったんだ」「いますぐ返して来い! 歩いて行け! 私なら盗んだ車より歩いたほうがマシだ!」 おれたちゃ人民解放の英雄なんだからクルマくらいとってもいいじゃん、とは決して言わない。 この潔癖性は、物事がうまくまわっているうちはいいけど、回らなくなったときには恐ろしい方向に作用するかも。 で、映画を観終わったあと、わたしは客席をみわたした。 「あー、退屈」みたいな顔をしている人もいたけど…… 六十代後半くらいの男女がふたり、声を殺して泣いているのに気付いた。 ……これを観て感涙ということは、やはりあれですか、火炎瓶を投げていた人たちですか? 尋ねようと思ったが、「現役の中核派ですが何か?」とか言われたら困るので、訊かずに去った。 PR
「ブラッドファイト 蒼血殲滅機関戦闘録」を更新しました。
また2週間かかってしまった! しかも2週間のうち10日は書けずにいて、今日になってようやく火が付いた。 これから夜勤です。夜通しの片側通行です。寒そうです。 きつい仕事が迫ると「ウオー書かなきゃ!」って気がして速くなるね! 試験の前の日に、とつぜん部屋の掃除がしたくなるようなものかな? ……げ、現実逃避って言うなー!
数年も前に書いた小説の、感想メールが来た。
……書いたものが他人の心に届くというのは、動かせたというのは、とても幸福だ。 「ぼくの人生は間違っちゃいなかった!」という気持ちになる。 その小説の新人賞的な評価は低かったが、それとこれは別で、やる気が沸いてくる。 書けば必ず、どこかの誰かに届くのだ、それが分かった。 よし襟を正してもっと書くぜ!
伊藤計劃の「虐殺器官」「ハーモニー」を読んだ。
すごい小説だった。 これがSFだ! SFでしか書けない、「人間ではなく人類を扱った小説」だ! たった一つのアイディアで世界がぐるんとひっくり返る、衝撃の物語だ! どっちも面白いけど、この2作品は明らかに対になっているので、たぶん前編後編でもあるので、両方とも(できれば虐殺器官を先に)読むとさらに刺激的かと。こいつらのやろうとしたことは正しいのか、でも気持ちはわかる、私の立場としてわかってはいけないんだけど、わかる! みたいなことが頭の中をグルグルしてます。 「虐殺器官」あらすじ。 近未来。アメリカはテロとの戦いを続けていた。米軍の特殊部隊員である主人公クラヴィスは、さまざまな作戦に投入されるたびに、「虐殺や民族紛争の現場には、かならずジョン・ポールという男がいる」と気づく。この男が現れるや否や、その国に虐殺の嵐が吹き荒れるのだ。クラヴィスたちはジョン・ポール捕縛を命じられるが、必ずジョンは逃げてしまう。なぜ彼は捕縛できないのか。そして彼は何故、どうやって虐殺を引き起こしているのか。クラヴィスは母親を殺したトラウマについて苦悩しつつ世界を巡ってジョンを追い、すべての答えを知る。そして彼が最後に決断したことは! この虐殺器官もたしかに面白いんです。肉体強化などのSF技術を入れつつ、ぎりぎりサイバーパンクにはならないリアリティが凄い。そして明らかにされる根本アイディアが凄い。 いや、ネタ的には新しいわけではないと思う。川又千秋の「幻詩狩り」とか、あと藤子不二雄の「間引き」に出てきた台詞。「愛は、人類が生き残るために獲得した能力に過ぎないんじゃないか? 人口過密の現代では邪魔な能力なんじゃないか?」というあの台詞を連想した。 でもアイディアが実際に物語になっているのを見ると「ガーン! 言われてみれば!」というコロンブスの卵的ショック! 「ハーモニー」あらすじ。 時は21世紀後半。人類は核戦争の時代を生き残り、「生命こそ最高に価値がある」という「生命主義」の社会を構築していた。病気や犯罪はほぼ根絶され、人々は体に監視機械を入れて、機械の指示するがままの生活を送り、たがいに思いやりあって生きていた。 その優しい世界を息苦しいと感じる者もおり、主人公である少女トァンは友達に誘われて「世界に反抗するために自殺しよう」とする。ところが友達だけが死んで主人公は生き残ってしまう。 月日は流れ、大人になったトァンは遺伝子犯罪などを取り締まる監察官となり、わずかに残っている危険地域を巡ってささいな悪徳にふけり、解放感を味わって現実との折り合いをつけていた。 ところがあるとき、「全世界で何千人もの人間が同時に自殺する」という事件が発生。 「完全に管理された安全な社会」は未曾有の惨劇に大混乱し、崩壊の危機。 トァンはこの事件を捜査するうち、死んだはずの友人の影を見る。そして世界、いや人類社会をひっくり返す計画「ハーモニクス」を知る。彼女の決断とは! どっちも決断で終わるのかよ! って? いや、その通り、主人公の決断で話が終わるんですよ。 こんな巨大なことが個人の「想い」(恋愛感情や友情、トラウマ等)で決まってしまっていいのかな、という罪悪感はあるんですが、でも、マクロとミクロが「ちゃんとした理屈で直結している」という強烈な感動を覚えました。 ハーモニーの何が凄いって。 生命至上主義社会の薄気味悪さ。「酒は禁止、タバコも禁止、肥満は社会への裏切り、暴力や不道徳を描いたフィクションは封印、もっと安全に生きなさい……」と機械に管理される社会。法律で強制するまでもなく、それをみんなが常識として受け入れている社会。 気持ち悪いけど、「これは私を含む人間が心のどこかで望んでいる社会なんじゃないか。最大公約数的に世界はこっちに向かっているんじゃないか」という予感もします。私などは「自由と自己責任の社会は過酷過ぎる」とネットに書きますが、自由と自己責任を否定するなら、行き着く先はこの小説のような「機械が一生、手取り足取り指導してくれる社会」「強制的な優しさの世界」になってしまう…… で、さらに、そんな世界が急展開に継ぐ急展開で……人類の終局が……ああ! ネタバレが恐ろしくて書けない! でもこれを読んだとき、私の頭の中に何が去来したのか、なら書ける。 「私が5年も10年もかけて、小説だけじゃなくて掲示板でもリアル会話でも伝えようとしていたことが、たった1冊の小説ですべて表現しつくされてしまった……!!」 この絶望と快感がゴチャマゼになった衝撃! この足元が揺らぐ感じ! そう、私はずっと前から言い続けてきた。 「イジメは空気が原因だ、格差社会も空気が原因だ、どこが政権をとっても、法律を変えても、世界に陰惨な空気が満ちている限り変わらない、私の敵は空気だ」。 「空気」というのは「空気読め」の空気であって、人間の心の中にしかないものだ。物理的実在じゃない。マイナスイオンとか波動とかそういう話をしているんじゃない。人々の心にある戒律や原理のようなものだ。だがその場を支配し、人間の自由意志よりも上位にあるものだ。間違いなくある。あるんだ。 それが、私がずっと伝えたかったことが、この小説にはとてもわかりやすい形で描かれている。私はコレが言いたかったんだ、と考えればすべてすっきり筋が通る。どうして自分にはコレが言えなかったんだろう。 人は何故争うのか、人はなぜ絶望するのか、人は何故、楽園を築けないのか、という究極の答え。 そして「ならばどうすればいいのか」という、シンプルで美しい答え。 だから、物語の終盤でこの物語がヒューマニズムの限界を打ち破った瞬間、電車の中で読んでいて涙が溢れてきた。こんなに美しくてこんなに恐ろしいラストがあるか。私の心は「感動するべきだ」「これはダメだ、ダメなんだ」と相反する想いに引き裂かれていた。私は泣きじゃくりながら現場について警備に入った。あんた怖いわ。 とにかく「すごいものを読んだ!」。 あと、桜坂洋&東浩紀の「ギートステイト」が中断しているのがとても残念。 ギートステイトは、ぜんぜん別の切り口から、「ハーモニー的な世界」、「ハーモニー的な物語」を描いているので、ぜひ最後まで読んで、読み比べてみたかった。ギートステイトの世界はハーモニーの世界よりだいぶ多様性があって住みやすく見えますが、それは程度問題ですし、方向性は似ている。いかなる技術によってそういう世界が可能になったか、というのも似ている。 うーん……「社会と、それに適応できない人間」という明確な2者対立があるハーモニーに対し、「対立と愛憎が入り乱れ、どこが中心なのかまったく判らない」多元物語ギートステイト。いや、この1点が違うだけでぜんぜん違う話だな。それにギートステイトの方が古いぞ。とにかく惜しい! ハーモニーと出会って、ますます感じたギートステイトのもったいなさ! ふうふう。 感想を書くだけで3時間もかかりました。 |
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