ますだ/ペンネームCの日記です。06年9月開設
ウェブサイト「カクヨム」で小説書いてます。
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BF113星系外縁、重力渦動発電所で、ついにヤツを追い詰めた。
私は愛船のコクピットで、ESPを研ぎ澄まして、ヤツの宇宙船の周囲を探った。何もない、確かにヤツの組織は壊滅させた。銀河系最大の犯罪組織を率いた大犯罪者が、いまでは一隻の手下すら無く、惨めに逃げ回っている。 「観念しろ、銀河連邦警察だ!」 私が通信で呼びかけると、ヤツはノイズだらけのモニターの中で笑った。 「お前か。あの時の小僧が成長したものだ」 「もう小僧じゃない、銀河連邦警察で最強の捜査官だ。お前に倒されて来た先輩たちのためにも、貴様だけは!」 「生憎だが、私は往生際が悪くてね」 ヤツは回線を切ると、宇宙船を加速させた。すでに組織も壊滅、銀河連邦警察の艦隊に包囲されているというのに、一体どうする気だ? ヤツの宇宙船は、重力渦動発電所……つまりブラックホールに接近していく。警備システムを砲撃で破壊した。ブラックホールはガス円盤で取り囲まれているが、ガス円盤を避けて、北極方向からどんどん近づいていく。 「奴はブラックホールで自殺する気じゃないか?」 同僚が通信でそう言ったが、私は「ありえない」と即答した。奴はそんなたまじゃない。 ブラックホールは遠く離れた場所と異次元のトンネルで繋がっている、という「ワームホール理論」は現在の科学では否定されている。だが万が一、現代科学が間違っていてワームホール理論が正しいこともあり得る。奴はその可能性に賭けたのか? とにかく追わねば。 「危険だ!」 同僚の発言を無視して、私も船をブラックホールに近づけた。 重力が強くなるに従って時間が遅くなる。逆に外部の時間が早く見え、星の輝きが紫外線に、エックス線に変わって見えなくなっていく。いまや、船内時間一秒で、外では一時間が経つ。 「止まれ!」 私は威嚇射撃を行ったが、強烈な重力のためビームがねじ曲がり、まともに飛ばない。奴は威嚇を無視してさらにブラックホールに近づく。私も追いかける。時間の倍率が何十万倍、何百万倍になった。すでに外の世界では何年も経っているはずだ。 私は冷や汗を拭いながらうなずいた。ヤツの考えがわかった。未来に逃げる気だ。未来にいけば、もう自分を知る者も追う者もいない。まっさらな状態で悪事を再開させるつもりだ。 そうはさせるものか。この世の誰が忘れても、私だけは忘れないし許さない。 ヤツはまだ上昇しない。下降を続け、ブラックホールに近づく。私は震える手で操縦桿を握り、船をさらに軌道修正。ヤツを追う。 時間の倍率は何億倍、それ以上になった。もう外側の世界で何が起こっているのか、時間の速度が違いすぎて全くわからない。船はブラックホールの擬似的表面、時間の流れが完全に止まってしまう「事象の地平線」のすぐ外側を舐めるように飛んでいる。エンジンを全力で吹かし、吸い込まれないように遠心力を発生させながら飛ぶ。当然、速度は光速に近い。 闇の中で追いかけっこは続いた。 ヤツは私のすぐ前、追突するほどの至近距離にいる。拿捕のチャンスだが、できない。いま私の船の重力制御装置は全力を振り絞って、ブラックホールの潮汐から船体を守っている。ヤツの船に接触すれば限界を超え、船体は引きちぎられるだろう。 船体の軋みがひどい。モニターにはエンジンや重力制御装置の発する警報がズラリと並ぶ。もうだめだ、これ以上は船体が持たない。ヤツの船も同じ状況のはずだが……? 根競べに負けたのはヤツのほうだった。速度を上げ、事象の地平線から遠ざかっていく。 私もすかさず操縦桿を操作、船を上昇させる。 ブラックホールから離れ、時間の流れが正常に戻ったはず。 だが私はモニターを凝視して呻いた。 「なぜ真っ暗なんだ……?」 見えてくるはずの星が一つもない。この船は肉眼とは比較にならないほどの観測機能がある。銀河系の何千億という星の大半を捉えられる。それなのに一つも。別の銀河系も見えない。光だけでなく、赤外線、電波、何一つ飛んでこない。絶対の暗黒と虚無。 モニターの一番隅に表示された数字に目を走らせ、私は今度こそ言葉を失った。 「外部での経過時間 推定1000兆年 誤差10パーセント前後」 何百年ではなく、何億年ですらなく。1000兆年。 恒星の進化に関して子供の頃受けた授業が脳裏に蘇った。 比較的明るい恒星は何十億年程度で燃え尽きる。赤色矮星という暗い星も一兆年あれば燃え尽きてしまう。星の残骸から新しく星が生まれることもあるが、再生効率は百パーセントではなく、世代を重ねるごとに星の数は減っていく。いずれ宇宙のどこを探しても星がない時代が来る。それが今なのだ。暗闇と、絶対零度にまで冷えきった、かつて惑星と呼ばれていた石ころだけしかない。 自分を知る人間が誰もいなくなる、それは覚悟していた。地球人が滅亡して別の文明が栄えていることすら覚悟していた。だがこれは想像を超えていた。 錯乱状態に陥ろうとしてた私を救ってくれたのは、モニターの端で点滅するアイコンだった。 「熱エネルギーを検出」。 すべての星が燃え尽きた宇宙で? 私はセンサ類を操作し、自分のESPも総動員して、熱源の正体をさぐった。 熱源はごく小さく、恒星とは比較にならないほど弱々しい。普通の宇宙空間では星々の熱に紛れてしまって発見できなかったろう。だが、いまならば分かった。 ヤツの宇宙船も、この時代に来ていた……! 再び闘志が燃え上がった。私は宇宙船を駆り、ヤツの船に接近した。 また威嚇射撃を行うと、すぐに降伏の合図を送ってきた。しかも、ヤツの船は船体に装備されていた火砲、ミサイルランチャーの類をすべて解除し、宇宙空間に廃棄した。 無抵抗だと? 私は戸惑いを覚えながら、奴の船に接舷。近接戦闘用装備に身を固めて、乗り込んだ。 「待っていた、君を……よく来てくれた……」 しわがれた声、老い果てたミイラのような姿で、ヤツはコクピットに座っていた。 「その姿は……?」 私は最初驚いたが、すぐに理解した。ヤツと私では、ブラックホールから上昇開始する時間が、コンマ何秒か違っていた。それだけで外界では何十年もの時間差が生まれたのだ。 「手を上げろ」 銃を突きつけ、私は言ったが、実に滑稽な台詞だった。ヤツは言われるまでもなく、枯れ木のような両腕を上げている。体に武器も隠していない。センサーで確認済みだ。 「本当に済まなかった。ただ、君に謝りたかった」 ヤツは私を真正面から見つめ、喋り始めた。自分が重ねてきた罪について、何度も、何度も謝罪の言葉を。私はその言葉をきくにつれ動揺した。ヤツを屈服させることを、罪を悔いさせることを望んでいたはずなのに。ESPでヤツの心奥深くまで潜り、真意を探った。 一片の悪意も騙すつもりもない、純粋な白。言葉通り、償いたいという気持ちしかない。 「この世界、誰もいない宇宙でたった一人になって、十年も二十年も考え続けて……なにもできることはない、考えるだけしか……気づいたんだ、自分がどれほど悪いことをしてきたのか。だから君に謝りたかった。君の先輩や同僚たちも大勢殺してきた、本当に……」 深く頭を垂れるヤツに銃口を向けたまま、私は言葉を失っていた。 殺せばいい、私が裁くんだ、いまや銀河連邦警察も裁判所もない、すべて私が代行するんだ…… だが、どうしても引き金を引けない。 何十年も、星一つない宇宙を漂い続け、考え続けてきた? ひたすら悔いてきた? ほんのわずかな孤独で、私はあれだけ怯えたのに、ヤツは何十年? どれほど重く、長い後悔の人生だ? ヤツが悪事を働いていた時間よりも何倍も長い。 この人はもう罪を償っているのではないか、その思いが喉までこみ上げてくる。だが使命感を奮い起こして、違う言葉を叩きつけた。 「観念してるんだな、じゃあ死んでもらうぞ……」 「頼む。だから君が来るのを待っていた。君に裁いてもらわなければ……この宇宙は、間違って終わってしまう」 宇宙が間違ってしまう? なぜかその言葉に胸をつかれた。 「いまが宇宙の終わりなんだ。私たちが宇宙で最後の最後の生命で、最後のエネルギーの一欠片なんだ。この宇宙で最後に行われることは、正義の執行で無ければいけない。悪が裁かれないまま、宇宙が終わってはいけない……」 私は動けない。ヤツの言葉が胸中で反響する。 いつの間にか私の両目からも涙が流れていた。 「この宇宙で……最後……」 最後の出来事が、誰かを憎み、殺すことであって良いのか。 こんなにも悔いている人間をか。 私は銃を捨てた。狭いコクピットを漂っていく。 ヤツは驚愕に目を見開く。 「許す。お前を許す。最後の人類、最後の生き物の名において、お前を許す……!」 この宇宙で行われる、最後の出来事は。 誰かを許すことであって欲しかった。 「ありがとう……ありがとう……ありがとう……!」 ヤツは私の腕にすがって大声で泣いた。声は次第に小さくなっていき、そして消えた。 同時に、生命反応も消えたことを確認。とうの昔に寿命が尽きて、裁かれることだけを願って、執念で生きてきたのだろう。 ヤツの亡骸を、無限に広がる虚空に葬って、自分の船に戻った。 たった一人になった私はコクピットでひとりため息を付いた。 これからの果てしない時間、いろいろと考えるだろうが、きっと後悔することはない。 PR
「勇者よ、これが真実だ」
国王である私のもとに、勇者一行が訪れた。 人払いを頼まれたので、私はたった一人で謁見の間に座り、勇者たちを出迎えた。 「久しいな、勇者◯◯◯◯。大魔導師◯◯◯◯。大僧正◯◯◯◯。賢者◯◯◯◯。旅の首尾はどうだ?」 「全て順調でございます、陛下。究極凍結魔法ヴェルギラが会得できました。次は町で聞いた情報通り、『焦熱なる無の砂漠』に挑もうと思います」 「そうか。では今日は何の目的で来たのかね? 魔界六将軍と魔王を倒さねば世界は闇に落ちてしまうのだ、こんなところに寄っている暇は無いはず」 勇者は顔をあげた。引き締まった端正な顔に、いままでの勇者にはあり得なかったものが……焦りと疑念が浮かんでいた。 「恐れながら陛下。私は気づいてしまったのです」 大魔導師が言葉を継いだ。三つ編みの髪を揺らし、激情のままに叫んだ。 「あまりに全てが、お膳立てされていると! わたくしたちに都合が良すぎると!」 「ほう、どういうことかね?」 「六将軍筆頭を倒すためには、『焦熱なる無の砂漠』を突破しなければいけない、突破のためには究極凍結魔法が必要だとわかった、そのときになって突然、新しい迷宮が出現して、町の古老がその迷宮のことを突然思い出し、そこに行けば究極凍結魔法が手に入ると教えてくれた。こんな都合のいい偶然、あり得ませんわ!」 大僧正もいかめしい顔をますます険しくして、話し始めた。 「それをきっかけに、全てがおかしく思えました。たとえば、なぜ魔界六将軍は、自分たちの周りばかり強い魔物を置いて、王都のまわりには弱い魔物しか置かないのか。き奴らにとっては戦いの最前線です。もっとも強きものを投入するのが道理というもの」 「王都周辺では、冒険を始めたばかりの私達でも倒せる程度の敵。私達が強くなり、新しい迷宮に足を踏み入れると、それに合わせて敵は強くなっていった」 「他にもあります。なぜ、私たちは、運命に選ばれた勇者のはずなのに、陛下から『樫の木の棒』『五十ゴールド』しか渡してもらえなかったのか。なぜお金を稼いで装備を強化しなければいけなかったのか」 「わたくしは、情報を話し終えた後の町の人が『ようこそ ここは なになにのまち です』しか言わなくなることが不思議ですわ!」 私は笑みを抑えられなくなった。 「なるほどなるほど、全てが、筋書きのある茶番のように思えた、というのだね?」 勇者が立ち上がり、もはや私に敬意すら示さずに言葉を叩きつけてきた。 「その通りです。もし茶番であれば、今までの私たちの闘いは。魔物に殺されていった者達の苦しみは、一体何だったのですか。あまりに人の想いを踏みにじっている!」 「わかった。わかった。ついてくるがいい」 私は片手を振るった。謁見の間の背後の壁が音もなく開いた。 壁の向こうにある廊下を、勇者たちを連れて歩く。あたりの光景は城内の他の部分とはまるで違っている。石ではなく金属の壁。煙も熱も出さず、ぼんやりと発光する天井。勇者たちが息を呑んでいるのが、顔を見ずとも分かる。 廊下の果ての部屋に入った時、勇者たちは本当に凍りついた。 彼らには、そこに並んだ機械……量子コンピュータ、ナノマシン培養槽が何なのか分かるはずもない。だが自分たちの知識を遥かに超えた恐ろしいものだ、ということだけは伝わったようだ。 「へ、陛下、この部屋は……?」 「『真の玉座』だ」 私がそう言って片手を振るうと、コンピュータが認識して、空中に映像を浮かび上がらせた。 勇者たちもよく知る王都を、上から見下ろした映像。だが王都がどんどん小さくなっていき、その周囲の森や山が見え、ますます広い範囲が見え、勇者たちが旅してきた世界の全てが見え…… その外側が見えた。 勇者たちが知っていた、砂漠あり山脈ありの『全世界』は、四角い壁に囲まれた箱庭でしか無かった。 その外に広がるのは、毒々しい色の荒野と、干上がった海。死の星と化した地球。 「……君たちが言うとおり、この世界は筋書きのある茶番なのだ」 また手を振るう。もうひとつ映像が浮かぶ。天をついて林立する超高層ビル。行き交う無数のクルマ。 「世界はかつて、今とは比較にならないほど文明が発達していてね。人々はさまざまな娯楽を楽しんでいたのだ。その中には、ロールプレイングゲームというものもあってね」 さらに一つ映像が浮かぶ。勇者や魔法使いが魔物と戦う、あの時代山ほど作られた「ロールプレイング・ゲーム」のプレイ画面。 「人類は繁栄していたわけだが……」 すべての画面が閃光とキノコ雲で満たされた。 「全面核戦争という大きな戦いがあってね。人類は死に絶えて、世界は滅んだんだ。 それから長い年月が経て……異星人といってもわからないだろうな、われわれが住んでいる世界とは別の世界の住人だ。異星人が地球を訪れた。 異星人は、絶滅した人類を不憫に思い、蘇らせてくれた。 それは良いんだが……なにぶんにも、元の世界がどうなっていたか記録がろくに無くてね、異星人たちはミスをしたのだよ。『ロールプレイング・ゲーム』を実話の記録だと勘違いしたのだ。世界はロールプレイング・ゲームそっくりに作り変えられ、それ以来、ずっと世界はゲーム通りの茶番を繰り返している。定期的に魔王が現れ、魔物を率いて世界征服を企み、勇者たちが必ず現れて、魔王を倒して野望を阻む。世界が、そういうふうにできている。お膳立てしてくれるのだ。 異星人たちがそう作った以上、この世界の誰も逆らうことは出来ない、運命と受け入れて従うしかないのだよ。わかってくれ」 勇者たちはしばらく沈黙していた。いままでの人生経験とあまりにかけ離れたことを聞かされたせいで混乱しているのだろう。だが彼らはきっと事実を受け入れる、私は信じていた。 「いいえ! 納得など出来ませんな!」 これまで沈黙していた老人、賢者が私を睨んだ。 「では、あなたは何者なのか!」 その言葉をきいて、ほかの者も「あっ」と声を漏らす。 「王よ、あなたの言うとおりならば、人間が全て滅びて、異星人が『ロールプレイング・ゲーム』に似せて世界を作りなおしたならば! 元の世界のことを知っている人間は誰一人いないはず! あなたは何故、知っているのです」 私は笑い出した。 「ははっ、これは凄い。過去に、この世界が茶番と気づいた勇者は八組あるが、私の説明の矛盾に気づいたのは君たちが初めてだ。みんな衝撃的真相に打ちのめされ、矛盾など考える余力がなかったのに! 洞察のとおりだ。私は、旧世界の中で、たった一人だけ生き残った人間」 私は、まとっていたガウンの胸部分を肌着ごと引き裂いた。 あらわになった胸に指をかけ、さらに裂く。 中から出てきたのは、ピンク色の臓物と、ツタにも似た無数の微小な機械が混ざり合ってうごめく姿。異星人に与えられた機械の体。 「私は『ロールプレイング・ゲーム』の開発で大金持ちになった人間でね。核シェルターに篭っていたから奇跡的に助かったのさ。だが一人だけではどうにもならない、途方に暮れていたら、異星人が接触してきた。 『かわいそうなので地球人を復活させたい。もとの世界がどうなっていたのか教えて欲しい』 私の心に、悪魔が囁いたね。 私は自分の作ったロールプレイングゲームのカートリッジを差し出して言ったものさ。 『このゲーム通りの世界でした。この通りに直して下さい』……」 「きさまあっ!」 忍耐の限度を超えたらしく、勇者が私に詰め寄り、剣の柄に手を添えた。 「わたくしも許せませんわ! お前さえ、おかしなことをしなければ、魔物も魔王もいなかった……!」 「待て待て。私を殺して、どうなると言うのだね? 一度作られてしまった世界の理は、私をどうしようが止まることはない。これからも定期的に魔王と勇者が出現する、永遠にだ。 私なら、それを止めることは出来ずとも、被害を減らすことはできるぞ? 私が作ったゲームなのだ、攻略法というものがある。効率のいい攻略法を知っているから、できるだけ被害を減らし、早めに魔王たちを倒すことが出来る。私を殺してしまえば、攻略法を知ることはできなくなる。もしかすると今度は魔王に負けてしまうかもしれんなあ? どうだね……?」 にやにや笑いを浮かべていると、勇者たちは真っ赤な顔でしばらく震え、やがて、 「お前の言うとおりだ……」 「賢明な判断だよ。では、これからも頼む。次は『焦熱なる無の砂漠』だ。究極凍結魔法ヴェルギラは魔力の消耗が激しい、魔鉱石を大目に持っていけ。それから、魔界六将軍筆頭を倒せば暗黒剣ドルンシュバイクが手に入るが、これは今の勇者のレべルでは、装備すると呪われてしまう。気をつけることだ」 勇者たちは憤怒を押し殺し、青ざめた表情で去っていった。 彼らの後ろ姿を見ながら考えた。 あれだけ優秀な勇者たちなら、いままでとは違う、縛りプレイが可能かもしれん。 できるだけ低いレベルで魔王を倒すとか…… 勇者ひとりだけの状態で魔王を倒すとか…… 夢が膨らむな!
「神の子」
教団本部を包囲して投降を呼びかけたが、まったくの無視。 われわれ警察特殊部隊は完全武装で突入した。 入手していた情報通り、教団員たちは武装していたが、しょせん訓練が違う。われわれに損害はなく、白いローブの教団員たちは次々に血を流して倒れていく。倒れた者には応急措置をして拘束、取り調べのために後送した。 突入からわずか十五分で、すでに本部の九割を制圧しつつあった。楽勝だ。 そんな時、倒した教団員の一人が、血走った目で私をにらんで吐き捨てた。 「いい気になるなよ。お前たちなど……『神の子』の力さえあれば! 神罰を受けるがいい」 部下が、その男を拘束しながら不思議そうに言う。 「神の子、ですか……噂は本当だったんですかね?」 「教団はキリストのクローンを作ろうとしているという話か? しかしキリストの遺伝子入手には失敗しているわけだし、妄想じゃないかね」 軽口を叩きながら、我々は次の部屋に突入した。 奇怪な祭壇の設けられた部屋。祭壇の上には一人の男が傲然と腰掛けていた。 金糸のローブと長い髪、壮年の男。武装の様子はなく、一人の赤子を抱いている。 写真と合致。教祖だ。 「手をあげろ!」 そう言って部下の一人が銃を向けた。途端に、轟音と共に銃が暴発し銃身が破裂した。 「なっ……」「やめろ!」 私が制止するのが間に合わず、他の部下たちも教祖に銃を向けるが、全ての銃が一度に破裂、または故障。部下たちは手や顔から血を流し、呆然とうめく。 確率的にあり得ない出来事に私も戦慄した。脳裏に閃く言葉があった。まさか。 「……その子は、神の子。神の奇跡だというのか」 「その通り」 教祖は嘲りの笑いを浮かべた。 「なぜ、イエス・キリストは奇蹟を為し得たか? 私はその理由を、彼が通常の交わりから生まれなかったことに求めた。君のような輩でも知っているだろうがね、人間が生まれる際、膨大な数の精子が生き残りをかけたレースを行う。一着になったものだけが卵子と結合してヒトの姿となれる。ここで膨大な量の『運』が消費されていると私は考えたのだ」 そこで自分に酔いしれる表情となり、赤子を頭上に掲げる。赤子は曖昧な笑みを浮かべ続けている。 「そう……キリストは精子のサバイバルレースを得ていないため、とてつもない量の幸運を持っている……それこそが神の奇跡の正体だったのだ。 だから私はこの子を作った。 この子はキリストの遺伝子など持っていない。だがクローンだ。サバイバルレースを経ていない! 見よ、ただそれだけのことで、無限の幸運! この子の前に立ちはだかるものは無限大の不運に打ちのめされ、必ず自滅する! こんなことすら思いつかなかった自分たちの愚かさを呪いたまえ!」 しかしわれわれが壊滅することはなかった。彼が……一つの影が凄まじい速度で部屋に飛び込んできたからである。 影が飛び込んでくるや否や教祖は叫ぶ。 「愚かな!」 その手には幼子が微笑み、奇蹟の力で影を撃退…… することはなかった。影はそのまま、人間の五感では捉え切れない俊敏さで床を蹴って空中を突進し、教祖の喉笛に食らいついた。焦りと当惑の悲鳴を上げて尻餅をつく教祖を、われわれはあっさりと拘束する。 「何故だ。何故、神の力が通じなかった」 私たちは、近くに座って臨戦態勢を維持している影を……褐色と黒色に彩られた、屈強な体格のジャーマンシェパードを指さして言った。 「犬のクローンはとっくに実用化されていることを忘れてもらっちゃ困る」
スーパーダッシュ文庫編集部から、ブラッドファイトの批評が来ました。
ありがとうございます。 内容は内緒です。公開を禁じられています。 しかし……こんなこと書かれたら、ワクワクして、また送りたくなるじゃないか! ウワァァァァン、もう送らねえよ! とか思っていたのに。
http://dash.shueisha.co.jp/sinjin/sd_10.html
お、スーパーダッシュの1次選考が発表されてる。 ふだんは12月15日なのに、なぜ遅れたんだろう。 やっぱ都条例の影響かなあ(笑)。 まあ4年前の小説でも1次選考は通ったので…… ら……く……しょ? ない! ブラッドファイトの名前がない! 落ちてる……だと? そんなことが……まさか…… 衝撃のあまりポルナレフAAを貼り付ける気力すら湧いてこない…… 4年前の小説(ベルタ)よりも断然よくなってる、と思ったから送った。 しかし悪くなっていた。そういう結果だ。 私の4年間は無駄だった。そういうことになってしまった。 苦しくて、ひとばん、ずっと悩んで眠れなかった。 なにを食べても味がわからない。胃がムカムカして戻しそうになる。 暖房をかけても体が冷たくて、寒くて仕方ない。 この苦しみはなんだろう。いままでの落選よりも辛い。 人生の集大成だ、くらいの気持ちで、自信があったから辛いんだろう。 でも仕方ないので、別の小説を書く。 もっと早く。 書いて書いて結果を出さないと、落選の苦しさを消すことはできない。 大きな方向転換が必要だろう。 |
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